ある19歳の女の子のこと その1
2020年4月15日(水)
今年19歳になった女の子、萌ちゃんとの出会いは今から6年くらい前でした。
当時、クルミドコーヒーでも開催させていただいていた音の葉のコンサートにご家族でいらしてくださったのです。
萌ちゃんはとても大きな、座面がほぼフラットになる車椅子に横たわるようにして乗っていました。
コンサートが終わって、お帰りになろうとしているご家族をわたしは
追いかけて声をかけました。
「今日はよくいらしてくださいました!」
これはそのとき、わたしの精一杯のメッセージでした。
萌ちゃんは自力で身体を動かすことができません。
寝返りもお母さんにしてもらいます。
言葉を話すこともできません。歩くこと、自力で身体を動かすことができないので、オムツをしています。
どうやって意思表示をするの?と聞かれますが、萌ちゃんは笑ったり、泣いたり、豊かな顔の表情で伝えています。
萌ちゃんのお宅に通うようになってから、
萌ちゃんや萌ちゃんのご家族が行きたいところに行くにも、それだけでなく、すべての生活において制限があることに初めて気づきました。
わたしは、気づくのに、ずいぶん時間がかかりました。
じぶんが知ろうとしていなかったことにも気づきました。
クルミドコーヒーでわたしが声をかけたことをとても喜んでくださって、
またご家族で聴きにいらしてくださいました。
そしてそのうち、音の葉houseにもいらしてくださるようになり、
ついにはご自宅でコンサートを、とお声かけていただくようになりました。
萌ちゃんのお誕生日に演奏をプレゼントしたい、そうおっしゃって。
毎年、お誕生日に伺うようになってから、わたしはより一層知らないことばかりだったことに気づきました。
おうちの中に、医療器具がたくさんあったからです。
点滴のような器具、それが萌ちゃんに主な栄養素を直接 胃に送る「胃ろう」
であること。
萌ちゃんのお腹に開けてある穴に管を指して、毎日時間を決めて定期的に
栄養を送っていること。
口からの食事はほんの少しだけ。
ペーストにしたものを少しずつスプーンで食べさせてもらいます。
萌ちゃんは、お父さんに食べさせてもらうのがいちばん好き。
そしてやっぱり口からとる食事が大好きなんです。
でも気をつけないといけないのは、口に入れたものは食道ではなく、肺に入ってしまう、誤嚥性肺炎の恐れがあり、食事は楽しい反面、とても危険であることを知りました。
食事だけではありません。
夜中には3時間おきにお母さんが寝返りもさせています。
萌ちゃんはわたしが最初に出逢ったときより、身長も体重も大きくなりました。お風呂や着替えは、お母さんひとりでは難しくなり、看護師さんやヘルパーさんにお願いすることもあるそうです。
お父さんは日中お仕事なので、お母さんがヘルパーさんなどの力を借りながらもおひとりでがんばっておられる、だからお父さんはその負担をできるだけ減らそうと、
お仕事が終わるとすぐに家に飛んで帰ってきて、萌ちゃんのお世話をなさるのだそうです。
これからの職場は、社員の家庭状況も鑑みて、配置や時間など
考慮していかねばならない、ということにも気づきました。
こういった諸々のこと、よく考えたらすぐわかりそうなのに、わたしはお話を聞かせていただくまで何も知りませんでした。
情けないけど無知でした。
そして知らないことは、まだありました。
今回、19歳のお誕生日に伺って初めて知ったこと、
それは生まれつきの障がいがあったということではなく、
萌ちゃんの成長を妨げる何か大きな病があることを、
萌ちゃんの1歳児検診のときに、医師から宣告されたこと、でした。
生まれてきたときには、萌ちゃんにそんな病気があることがわかるはずもなく、本当に普通のかわいい赤ちゃんで、これからスクスク育つものと信じて疑わなかった、しかももうすぐ歩き始めるぞ、と期待していた矢先。
今までできるようになったことが、これからだんだんできなくなっていくという事実。
ご両親の気持ちを察するに余りあります。
このお話は【その2】に続きます。
(みなさまの許可を得て、掲載させていただいています)