演奏家の筋肉

2019年3月11日(月)

私は 演奏家の筋肉を探すのが好きだ。

そして明らかに その楽器を演奏するためについた筋肉だな、という筋肉を探し当てた時、ついじーーーーっと観察してしまう。

今日の本番中、チェリスト 矢口里菜子さんの弓を持つ右手が見える位置に私は座っていた。
すると 見える、見える。
背中がぐっと開いたドレス。
肩、背中、腕、ものすごい筋肉が動いている。
細い身体なのに、 びっくりするほどの鍛え上げられた筋肉なのだ。
しかもその動きの美しさといったら!

私は思わず、本番中に 近くに座っておられる皆様に「あそこ、見て〜!」と
言いたくなるのを ぐっと我慢した。
いや、我慢しようとして 結局は 我慢しきれずに、休憩時間に
その話をしてしまった。
すると みなさんが とても興味深く 私の話を聞いてくださった。

「あれ?こんなに筋肉を見るって もしかして一般的じゃないのかな?」
ということに ちょっと気づいた。

今日の本番終了後に 楽器の構造などの説明をすることになっていた。
なので、私は チェロの構造をちらっとお話ししたのだが、
だめだ、私の脳みそは さっき見たものすごい筋肉でいっぱいになっていた。
それでつい、その話をしてしまった。
ついでに 「見えない位置にお座りの方もご覧になりたいですか?」と
ふってしまったら、みなさん うん、うん、と頷かれる。

里菜子さんには 申し訳ない、とは思ったが
くるっと後ろを向いていただいて、お客様に背を向けた状態で、
激しい音が連続する部分を弾いていただいた。
「おぉ〜〜〜」 会場からざわめきが。

お帰りになるみなさまが
「筋肉の話、おもしろかったです!」
口々にそうおっしゃって あわわ、それは 良かったのか 悪かったのか?
それは 今も私の中で 謎なのである。

演奏家の筋肉は 日々 「どう演奏したいのか、どんな音が出したいのか」
それを模索し、コツコツと練習していく中で 思考が作っていく。
いわば脳みその筋肉でもあるのだ。
大工さんには 大工さんの、美容師には 美容師の 筋肉があるはずで、
私は その方が何を目指しておられるのか 筋肉から垣間見るのが
とても好きなのだ、ということが 今日の本番でよくわかった。

やっぱり演奏家は 音だけでなく 筋肉までも美しい。

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