再び Pianist 向井山朋子展 @メゾンエルメス

2019年2月23日(土)

Pianist 向井山朋子展

会期19日目、私がここに来るのは2回目である。
今回はどうしても朝と夜の境目に体験したかった。
今日しかない。
毎日1時間ずつずれていく開演時間を 私は何度も何度も確認しては 今日という日を選んだ。

エルメスに到着すると エレベーターの前にはすでに沢山の人が並んでいる。
あぁ、みんな私と同じことを思ったのだな。
若い人が多い。

会場に到着すると もうすでに開演を今か今かと待つ大勢の人で 足の踏み場もないどころか、一歩も前に進めない状態になっていた。
朝6時前のエルメスにこれだけの人が押し寄せている。

しばらくして 背後から小さな声が聞こえてきた。
「すみません。通してください」
Pianist 向井山朋子さんだった。
あまりの人で ピアニストでさえ、前に進めなかったのだ。
私はくすっと笑ってしまった。同時に 向井山さんも 笑っていた。

外はまだ暗いはず。でも銀座の夜に 暗闇はない。
全面 ガラスブロックの壁からは 薄く光が漏れていた。
静かに高音が鳴り始める。その音は だんだん激しさを増していく。
不協和音が 夜の空気をぶった斬るように強く強く会場全体を揺さぶる。

あぁ、ちょっと嫌だ。
正直、私はこの不協和音の連続に 耐えられなくなっていた。

そのうち1曲めの 演奏は終わり、向井山さんは立ち上がった。
拍手がおこる。
私は まだ拍手したくなかったから そのまま 立っていた。

また向井山さんのか細い声がする。
「お願いします。向こうのピアノに行きたいんです」
笑いが起こる。

向こうのピアノに移ってからも しばらく不協和音が続いた。

ある時 すっと美しい和音進行に変わった。
あ!
夜から朝に変わった瞬間だった。

すでに 朝の光が会場に差し込んでいたけれど、音の世界でも 朝になった。
それは とても優しく、安らぎのある和音だった。
しかし最後の和音は 終わりとは思えない音だった。

それは今日はこれからよ、と余韻を残している和音のように聴こえた。

今回 2度体験させていただいたが、どこか深いところで 向井山さんと
会話したような 今回の展だった。
ありがとうございました。

 

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